2012年5月5日土曜日

L-カルニチンについて


L-カルニチンについて
  食品成分有効性評価及び健康影響評価プロジェクト解説集

L-カルニチン、コエンザイムQ10およびα-リポ酸は、ダイエット効果を標榜する「いわゆる健康食品」に含まれている話題の食品素材です。生化学の教科書では、これらの素材はいずれもエネルギー消費やエネルギー産生に重要な役割を果たすことが示されています(1)。従って、これら食品素材の摂取は脂肪燃焼を促し、ダイエットに効果的に作用する可能性が強調され販売されています。そこで本ミニレビューでは、脂肪燃焼に密接に関与する食品素材の一つであるL-カルニチンを取り上げ、その作用メカニズムや人での研究成果について紹介し、最近話題の機能性を考えてみたいと思います。


1. L-カルニチンとは

L-カルニチン(図−1)はリジンとメチオニンと言う2つのアミノ酸から肝臓や腎臓で作られる生体微量成分です。この他にも肉などから摂取されます。L-カルニチンは、体内でも造られる成分ですが、年齢とともにその生成量は低下することが知られています(2)。L-カルニチンは、筋肉細胞へ長鎖脂肪酸の受け渡しなど栄養成分の代謝に重要な働きをしています。また、光学異性体(分子内の化学結合が鏡像の関係にある異性体)であるD-カルニチンはL-カルニチンの働きを阻害すると考えられています。

国内では約50年ほど前より医薬品として用いられていましたが、2002年12月より食品としての利用が認められたことから、体内で脂肪酸燃焼に重要な関わりを持つL-カルニチンの生理機能に着目した「いわゆる健康食品」が、体脂肪燃焼効果を期待するダイエット食品として注目され始めました。

2. 体内におけるL-カルニチンの役割

体内でL-カルニチンは主に2つの働きをしています。


子供の肥満に関与する社会問題

一つの働きは、脂肪酸などをミトコンドリア内へ運搬する役割です。ミトコンドリアは細胞内にある小さな器官です。ここでは物質の酸化によるエネルギーを用いて、生体活動に必要なエネルギー源であるアデノシン3燐酸(ATP)が作られます。特に長鎖脂肪酸が利用されるb-酸化へのL-カルニチンの関与は古くより知られています(3)。すなわち、細胞質の内に取り込まれた遊離脂肪酸(アシル基)は補酵素A(CoA)と結びついてアシルCoAになり、カルニチンアシルトランスフェラーゼIと言う酵素の働きによってL-カルニチンと結合しアシルL-カルニチンが生成されます。このアシルL-カルニチン結合体はミトコンドリア内膜を通過することが可能であり、ミトコンドリア膜を通過した脂肪酸はミトコンドリア内部でb-酸化を受け脂肪が燃� �されます。図−2を参照下さい。

このような働きの他にもL-カルニチンは、潜在的に細胞毒性を示す短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸をミトコンドリア外へ運び出す働きをしたり、ミトコンドリア内でエネルギー代謝に関与する遊離しているCoAを細胞内に維持する働きをしています(4)。

以上のようにL-カルニチンは、細胞内のミトコンドリアに脂肪酸などを運ぶ役割と細胞内における遊離CoAの維持に重要な役割を担っていて、多くの基質の生体内での消費と細胞内環境維持に必要不可欠な生体成分であると考えられます。

3. L-カルニチン摂取量の目安

厚生労働省はこれまで医薬品として使用してきた経緯と諸外国の摂取目安量(アメリカ:体重(1kg)当たり20mg/日、スイス:成人一人当たり1000mg/日)を参考に、過度のL-カルニチン摂取を防ぐ目的で1日あたりの摂取上限の目安量を約1000mgとし、L-カルニチンを供給する者は過剰摂取の防止に対する配慮や消費者への情報提供を行うように勧告しています(5)。アミノ酸の一種であるため過度の摂取を行わなければ代謝され体外へ排出される可能性が高く比較的安全な食品成分と考えらます。体内でのL-カルニチン生成量は20代をピークに減少すると考えられています(1)。従ってL-カルニチンは、食事環境や加齢に応じた摂取を行うことが望ましい食品成分と思われます。実際の食生活ではL-カルニチンは主に肉類から供給されるため、� ��活習慣病のリスクの高い人はそのリスクに応じた摂取方法や他の栄養成分とのバランスを考慮する必要があるかもしれません。

4. 人におけるL-カルニチンの生理的有効性:臨床薬的な効果を中心に

4-1.循環器疾患に関連する効果


子供の健康の肥満

狭心症に関する有効性として、1日当たり2gのL-カルニチンの投与が心機能の改善と運動機能の向上をもたらすことが報告され(6,7)、またL-カルニチンの投与により心拍数の改善、収縮期動脈圧の改善、脂質パターンの改善、死亡率の低下なども示されています(8,9,10)。

4-2.腎機能改善効果

透析を受ける腎疾患においてL-カルニチンの経口摂取あるいは静脈投与は透析によって失われたカルニチンを補うために必要な処置とされています(11)。しかし、Hurotらは様々な角度から透析患者に対するL-カルニチンの生理効果を調べた結果、透析患者へのL-カルニチン投与は、脂質代謝異常の改善に対して効果を示さないが、貧血の改善に効果的であることを示唆しています(12)。

4-3.AIDS患者のリンパ球に及ぼす影響

1日当たり6gのL-カルニチン摂取が、AIDS患者において抗アポトーシス作用を示すことや(13)、6gのL-カルニチンを4ヶ月間HIV-1感染者へ与えたところアポトーシスを引き起こす細胞の発生頻度の低下を観察していますが、臨床的な効果までは至っていません(14)。 アポトーシス:細胞死のメカニズムで、細胞に遺伝的にプログラムされている細胞死をアポトーシスと言います。

4-4. その他の作用

1) 不妊症に対する有効性について、Lenziらは不妊症男性患者へL-カルニチン(2g/日)と L-アセチル-カルニチン(1g/日)を6ヶ月間与えたところ精子の運動が改善したことを報告していますが(15)、妊娠との関連性は明らかではありません。

2) 甲状腺機能亢進は血中カルニチン濃度の低下を生じることが知られていますが、2〜4g/日のカルニチン摂取により症状が改善することが報告されています(16)。

3) 抗けいれん薬(抗てんかん薬)であるバルプロ酸の服用は、カルニチン欠乏を引き起こすことが知られています。バルプロ酸治療を行う患者に体重1kg当たり15mgのL-カルニチンを投与したところ、1週間でカルニチン欠乏から回復することが示されています(17)。また、L-カルニチン摂取はバルプロ酸摂取によって引き起こされる肝毒性や過剰投与によって引き起こされる障害に対しても有効とされています(18)。

4) � ��天性代謝異常によるカルニチン欠乏症に対し有効であることが知られています(19)。

このように臨床的なL-カルニチンの利用の多くは、欠乏症を補うために投与する事例が多いことが分かります。


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5. 近年の話題

L-カルニチンには以上に示したような様々な生理機能が報告されていますが、生化学的には、長鎖脂肪酸などがミトコンドリア膜を透過するのに必要な成分として働きます。特に、脂肪酸の代謝ではb-酸化に大きく関係するため、細胞内でのL-カルニチン濃度は脂肪酸のミトコンドリア膜透過に大きく関係し、エネルギー産生に影響するものと考えられています。

近年、生活習慣病の増加に伴って、リスク因子である肥満の予防あるいは改善に関心が集まっています。L-カルニチンの生理機能を考えれば、脂肪燃焼の亢進による体脂肪低減効果が期待されるのですが、L-カルニチンの経口摂取が、人において肥満の改善効果を示す報告はこれまで認められていません。動物においても体重増加量の低下や体脂肪の減少に関する効果に否定的な報告が見られます(20, 21)。これらのことから、L-カルニチンの摂取は肥満に対して効果があるとは思えないのが現状です。果たしてL-カルニチンの摂取が肥満解消を促すのか今後の検討課題です。

以上近年話題のL-カルニチンについて紹介しました。L-カルニチンは薬として使用されてきた経験が長く、また生体成分でもあることから、安全性上大きな問題は生じないと考えられますが、「いわゆる健康食品」として摂取されたL-カルニチンによって、脂肪燃焼を介したダイエット効果が発揮されるのか疑問が残されており、利用に対する冷静な対応が必要かもしれません。


引用文献

1.生物化学 朝倉書店

2.Costell M. O'Connor J. E. Grisolia S. Age-dependent decrease of carnitine content in muscle of mice and humans. Biochem Biophys Res Commun. 161(3):1135-43 (1989). PMID: 2742580

3.Friedman S. Fraenkel G. Reversible acetylation of carnitine. Arch. Biochem. Biophys., 51: 491-501 (1955) PMID: 14350791

4.Mpietrzak I. Opalish G. The role of carnitine in human lipid metabolism. Wiad Lek 51: 71-75 (1998) PMID: 9608835

5.厚生労働省医薬局食品保健部基準課長 食基発第1225001号 平成14年12月15日

6.Cacciatore L. Cerio R. Ciarimboli M. Cocozza M. Coto V. D'Alessandro A. D'Alessandro L. Grattarola G. Imparato L. Lingetti M. et al. The therapeutic effect of L-carnitine in patients with exercise-induced stable angina: a controlled study. Durugs Exp. Clin. Res., 17: 225-235 (1991) PMID: 1794297

7.Cherchi A. Lai C. Angelino F. Trucco G. Caponnetto S. Mereto P. E. Rosolen G. Manzoli U. Schiavoni G. Reale A. et al. Effects of L-carnitine on exercise tolerance in chronic stable angina: a multicenter, double-blind, randomized, placebo controlled crossover study. Int. J. Clin. Pharmacol. Ther. Toxicol., 23(10): 569-572 (1985) PMID: 3905631

8.Singh R. B. Niaz M. A. Agarwal P. Beegum R. Rastogi S. S. Sachan D. S. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of L-carnitine in suspected acute myocardial infarction. Postgrad. Med. J., 72: 45-50 (1996) PMID: 8746285


9.Iliceto S. Scrutino D. Bruzzi P. D'Ambrosio G. Boni L. Di Biase M. Biasco G. Hugenholtz P. G. Rizzon P. Effects of L-carnitine administration on left ventricular remodeling after acute anterior myocardial infarction: L-Carnitine Ecocardiografia Digitalizzata Infarto Myocardico (CEDIM) trial. J. Am. Coll. Cardiol., 26: 380-387 (1995) PMID: 7608438

10.Davini P. Bigalli A. Lamanna F. Boem A.Controlled study on L-carnitine therapeutic efficacy in post-infarction. Drugs Exp. Clin. Res., 18:355-365 (1992) PMID: 1292918

11.Bohmer T. Rydning A. Solberg H. E. Carnitine levels in human serum in health and disease. Clin. Chim. Acta, 57: 55-61 (1974) PMID: 4279150

12.Hurot J.- M. Cucherat M. Haugh M. Fouque D.Effects of -carnitine supplementation in maintenance hemodialysis patients: A systematic review. Int. J. Cancer, 106: 429-437 (2003) PMID= 11856775

13.Cifone M. G. Alesse E. Di Marzio L. Ruggeri B. Zazzeroni F. Moretti S. Famularo G. Steinberg S. M. Vullo E. De Simone C. Effect of L-carnitine treatment in vivo on apoptosis and ceramide generation in peripheral blood lymphocytes from AIDS patients. Proc. Assoc. Am. Physicians, 109: 146-153 (1997) PMID=9069583

14.Moretti S. Alesse E. Di Marzio L. Zazzeroni F. Ruggeri B. Marcellini S. Famularo G. Steinberg S. M. Boschini A. Clifone M. G. De Simone C. Effect of L-carnitine on human immunodeficiency virus-1 infection-associated apoptosis: a pilot study. Blood. 91, 3817-3824 (1998) PMID=9573019

15.Lenzi A. Sgro P. Salacone P. Paoli D. Gilio B. Lombardo F. Santulli M. Agarwal A. Gandini L. A placebo-controlled double-blind randomized trial of the use of combined l-carnitine and l-acetyl-carnitine treatment in men with asthenozoospermia. Fertil. Steril. 81:1578-1584 (2004)

16.Benvenga S. Ruggeri R. M. Russo A. Lapa D. Campenni A. Trimarchi F. Usefulness of L-carnitine, a naturally occurring peripheral antagonist of thyroid hormone action, in iatrogenic hyperthyroidism: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial. J. Clin. Clin. Endocrinol. Metab., 86: 3579-3594 (2001)

17.Van Wouwe J. P. Carnitine deficiency during valpronic acid treatment. Int. J. Vitam. Nutr. Res., 65: 211-214 (1995) PMID=8830002

18.Raskind J. Y. El-Chaar G. M. The role of carnitine supplementation during valproic acid therapy. Ann. Pharmacother., 34: 630-638 (2000) PMID=10852092

19.Pharmacist's Letter/Prescriber's Letter Natural Medicine Comprehensive Database, 5th ed. Stockton, CV: Therapeutic Research Faculty (2003) ((独)国立健康・栄養研究所監訳:「健康食品」データベース(日本語版)2004(第一出版)

20. Melton S. A. Keenan M. J. Stanciu C. E. Hegsted M. Zablah-Pimentel E. M. O'Neil C. E. Gaynor P. Schaffhauser A. Owen K. Prisby R. D. LaMotte L. L. Fernandez J. M. L-carnitine supplementation does not promote weight loss in ovariectomized rats despite endurance exercise. Int. J. Vitam. Nutr. Res. 75(2):156-60 (2005) PMID=15929637

21. Saldanha Aoki M. Rodriguez Amaral Almeida A. L. Navarro F. Bicudo Pereira Costa-Rosa L. F. Pereira Bacurau R. F. Carnitine supplementation fails to maximize fat mass loss induced by endurance training in rats. Ann. Nutr. Metab. 48(2):90-94 (2004) PMID=14988638


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1 コメント:

Tara Omar さんのコメント...

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